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地域元気指数調査からみた
消滅可能性自治体と自立持続可能性自治体の比較分析
―消滅可能性自治体から自立持続可能性自治体となるために―


 本レポートは地域元気指数調査の結果をもとに、消滅可能性自治体及び自立持続可能性自治体それぞれの住民から見た地域の元気度及び住民の幸福度、地域評価の比較分析を行った。消滅可能性自治体及び自立持続可能性自治体における住民の主観的評価及び地域課題を考える上で、参考にしていただければ幸いである。


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自立持続可能性自治体は、移動仮定、封鎖人口ともに20~30歳代の若年女性人口の減少率が20%未満の自治体と定義されている。このことから、自治体・地域が持続存続していくか否かは、地域に住み続ける人口がどの程度あるのかが一つの目安になり、特に若年女性が地域に留まることや、移動仮定を経て地域にもどる動機づけとなる「地域に住み続ける価値」の創出が自立持続可能性を高める上で重要であるものと思われる。
このため、地域元気指数調査回答者10万人の中から、消滅可能性と自立持続可能性自治体に居住する対象者を抽出し、住民が主観的に評価する両自治体の違いや課題を明らかにするとともに、20~30歳代の若年女性が地域に留まる、地域にもどるための理由や条件等を分析し、自治体が自立持続性を高めるために有効な取り組みを検討した。


はじめに 消滅可能性自治体と自立持続可能性自治体の比較分析

 2014年、日本創成会議は今後数十年の内に人口減少によって存続が困難となる「消滅可能性都市(自治体)」リストを発表し、消滅可能性のある自治体のみならず我が国の社会・経済圏の衰退にかかわる問題として警鐘を鳴らした。
 10年が経ち、同会議は2024年に「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート」を公表、前回の考え方を基本的に踏襲し若年女性人口が2020年から2050年までの30年間で50%以上減少する自治体を「消滅可能性自治体」として744の自治体を抽出した。前回の消滅可能性自治体896自治体から脱却したのは239自治体、新たに該当したのは99自治体であった。また、分析レポートにおいては消滅可能性自治体を以下の4つのタイプに分類するとともにその対策を示している。
 株式会社アール・ピー・アイでは独自に実施している地域元気指数調査の10万人の対象サンプルから、今回、
  *1新たに加わった99の消滅可能性自治体に居住する3,083サンプル(人)
  *2 65の自立持続可能性自治体に居住する4,002サンプル(人)
を抽出し、両地域の元気度に対する主観的な評価を比較分析するとともに、消滅可能性自治体から自立持続可能性自治体となるための課題を考察する。


■図1. 消滅可能性自治体のタイプ化と課題
A 自立持続可能性自治体: 65
B ブラックホール型自治体: 25(B-①:18、B-②:7)
C 消滅可能性自治体: 744(C-①:176、C-②:545、C-③:23)
D その他の自治体: 895(D-①:121、D-②:260、D-③:514)


出所:人口戦略会議「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート」


Ⅰ全体の比較


2023 自立持続/消滅可能性区分別:全体
地域元気指数 幸せ指数
自立持続可能性自治体 6.25 6.23
新たな消滅可能性自治体 5.03 5.88
全国の自治体 5.75 6.10


 地域の住民が俯瞰して評価(10段階)する地域元気指数をみると、新たな消滅可能性自治体では2023年に5.03であり、2018年から微増はしているものの低位のまま推移している。
一方、自立持続可能性自治体においては2023年が6.25で2020年以降増加傾向にあり、両者のポイントは1.2前後と大きな差異がある。また、全国の自治体が5.75であることからみても自立持続可能性自治体の地域元気指数は上位にあることが分かる(図2)。
 他方、主観的な幸福度を評価(10段階)する幸せ指数は、消滅可能性自治体居住者が5.88、自立持続可能性自治体の居住者では6.23、ポイント差は0.4前後で地域元気指数と比べて小さいものの、それぞれの自治体の住民の幸福感においても一定の差がみられる(図3)。


■図2. 地域元気指数の推移 ■図3. 幸せ指数の推移幸せ指数


 地域の元気度を構成する5領域の住民評価を比較すると、消滅可能性自治体と自立持続可能性自治体ともに地域の「住みやすさ」と「誇りや愛着」に関わる領域の評価が高く、その差も比較的小さいことから、両者に共通する基本的な領域と考えられる。一方、「賑わい」と「経済の安定度」についてはともに評価は低いがそのポイント差は大きく、消滅可能性と自立持続可能性の行方をより大きく左右する領域と考えられる。 また地域の元気度を構成する50指標の住民評価では、ポイント差が大きい上位15の指標は以下の通りであり、個別の指標においては「賑わい」と「住みやすさ」に関わる領域が多いことが分かる(図4、5)。


■図4. 地域元気 5領域(各領域について5段階評価)


■図5. 50指標のうち消滅可能性自治体と自立持続可能性自治体のポイント差が大きい上位15


【30ポイント差以上】 【15ポイント差以上】
①「新しい住宅やマンションが増えた(37.1)」<経済> ⑤「街が変化し地域が魅力的になった(23.2)」<経済>
②「移住してくる人が増えている(36.1)」<賑わい> ⑥「交通利便性が高い(22.6)」<住みやすさ>
③「子どもが多い(35.7)」<コミュニティ> ⑦「買い物がしやすい(22.4)」<住みやすさ>
④「若い人の姿を多く見かける(30.7)」<賑わい> ⑧「新しいお店や施設が増えている(22.2)」<賑わい>
⑨「公共施設や公園が充実している(22.1)」<住みやすさ>
⑩「病院・医療体制が整っている(20.3)」<住みやすさ>
⑪「子育て環境や教育環境が整っている(20.0)」〈住みやすさ〉
⑫「地域に楽しめる場所がある(18.8)」<賑わい>
⑬「生活環境で困ることが少ない(18.6)」<住みやすさ>
⑭「地域の商店街(街)に活気がある(15.7)」<賑わい>
⑮「地元で買い物をする人が多い(15.5)」<経済>


地域元気指数で自治体の消滅・衰退―自立・持続を予見する
 以上、地域元気指数調査から消滅可能性自治体及び自立可能性自治体それぞれの住民から見た地域の元気度や住民の幸福度、地域の元気度を構成する要素の違いを概観した。
 消滅可能性自治体においては人口減少によって、地域の活性化が滞り地域元気度の住民の評価は低くなる。一方、人口減少に一定の歯止めがかかった自立持続可能性自治体においては、地域社会が活性化し地域の元気度も向上するものと推測される。
 消滅可能性自治体と自立持続可能性自治体の元気度の格差は、地域社会圏内での人口流出入や都市部への人口移動を加速させる可能性もあり、これらを抑制する地域の元気度を高める取り組みを人口維持対策とともに進めていくことが必要となろう。
 さらには地域元気指数及び幸せ指数、地域元気を構成する指標の動向を自治体の消滅・衰退―自立・持続を判断する上での有力な指標として活用することが期待される。


Ⅱ 若年女性の比較


2023 自立持続/消滅可能性区分別:20-30代女性
地域元気指数 幸せ指数
自立持続可能性自治体 6.48 6.43
新たな消滅可能性自治体 5.27 6.13
全国の自治体:20-30代女性 6.00 6.34


自立持続可能性自治体では、若年女性の地域元気指数と幸せ指数は全国値より高い
 自立持続可能性自治体と消滅可能性自治体に居住する若年女性の地域元気指数を比較すると、全国の20-30代女性の平均が6.00に対して、自立持続可能性自治体にあっては6.48、新たな消滅可能性自治体では5.27となっている。また、得点の分布では、自立持続可能性自治体にあっては5~8点の高い評価がボリュームゾーンであることに対して、新たな消滅可能性自治体では3~7点の評価がボリュームゾーンとなっている(図6)。
 他方、幸せ指数では、全国の平均が6.34に対して、自立持続可能性自治体の居住者では6.43、消滅可能性自治体居住者が6.13であり、地域元気指数と同様に自立持続可能性自治体においては全国値よりも高くなっている(図6)。


■図6. 地域の元気度と個人の幸せ感


若年女性は他の年齢層に比べて、『賑わい』と『住みやすさ』を重視する傾向
 若年女性においても、全国結果と同様に、「誇りや愛着」と「住みやすさ」領域の住民評価が高くなっている。一方、「賑わい」については消滅可能性自治体(20.7)に対して自立持続可能性自治体(47.1)、「経済活発度」では消滅可能性自治体(13.4)に対して自立持続可能性自治体(37.0)であり、それぞれの差は25ポイント前後と極めて大きくなっていることから、消滅可能性自治体では賑わいと経済の低下が深刻な状況にあるものと推測される(図7)。
 さらに、若年女性における地域の元気度を構成する50指標の評価を比較してみると、自立持続可能性自治体と消滅可能性自治体のポイント差が大きい指標は以下の①~⑮指標があげられ、「賑わい」と「住みやすさ」の領域に関わる指標が多くなっている(図8)。
 特に自立持続可能性自治体に住まう若年女性にあっては、『子どもの多さ』『生活環境の利便性』『病院・医療の充実』『地域の楽しめる場』『街の美しさ』に関わる評価は全体と比べて上位にあり、持続可能性自治体の実態・事実を裏付ける重要な指標と考えられる。
 また公共施設の満足度においても、すべての公共施設において両者で10ポイント以上の差があり、公共施設の充実は若年女性が地域に留まるための大切な要因となっているものと思われる(図9)。


■図7. 若年女性における自立持続可能性自治体と消滅可能性自治体別5領域の評価


■図8. 地域元気50指標のうち差の大きい上位15(各指標について5段階評価、数値は「当てはまる」+「やや当てはまる」の割合)

<若年女性>

<全体>

【30ポイント差以上】 【30ポイント差以上】
①「子どもが多い(38.1)」<コミュニティ> ①「新しい住宅やマンションが増えた(37.1)」<経済>
②「新しい住宅やマンションが増えた(36.7)」<経済> ②「移住してくる人が増えている(36.1)」<賑わい>
③「移住してくる人が増えている(36.2)」<賑わい> ③「子どもが多い(35.7)」<コミュニティ>
④「若い人の姿を多く見かける(33.5)」<賑わい>


④「若い人の姿を多く見かける(30.7)」<賑わい>


【15ポイント差以上】 【15ポイント差以上】
⑤「街が変化し地域が魅力的に(27.2)」<経済> ⑤「街が変化し地域が魅力的になった(23.2)」<経済>
⑥「交通利便性が高い(25.8)」<住みやすさ> ⑥「交通利便性が高い(22.6)」<住みやすさ>
⑦「生活環境で困ることが少ない(23.6)」<住みやすさ> ⑦「買い物がしやすい(22.4)」<住みやすさ>
⑧「病院・医療体制が整っている(23.6)」<住みやすさ> ⑧「新しいお店や施設が増えている(22.2)」<賑わい>
⑨「新しいお店や施設が増えている(23.1)」<賑わい> ⑨「公共施設や公園が充実している(22.1)」<住>
⑩「公共施設や公園が充実(22.1)」<住みやすさ> ⑩「病院・医療体制が整っている(20.3)」<住みやすさ>
⑪「地域に楽しめる場所がある(21.7)」<賑わい> ⑪「子育て環境や教育環境が整っている(20.0)」<住みやすさ>
⑫「買い物がしやすい(21.6)」<住みやすさ> ⑫「地域に楽しめる場所がある(18.8)」<賑わい>
⑬「地域の商店街(街)に活気がある(19.6)」<賑わい> ⑬「生活環境で困ることが少ない(18.6)」<住みやすさ>
⑭「子育や教育環境が整っている(19.4)」<住みやすさ> ⑭「地域の商店街(街)に活気がある(15.7)」<賑わい>
⑮「街がきれい(16.9)」<住みやすさ> ⑮「地域で買い物をする人が多い(15.5)」<経済>


■図9. 公共施設に対する満足度


消滅可能性からの脱却のカギは「地域に住み続ける価値」のイノベーション
 自立持続可能性自治体は、移動仮定、封鎖人口ともに20~30歳代の若年女性人口の減少率が20%未満の自治体と定義されている。これは減少率が20%未満であれば100年後も若年女性が5割近く残っている公算が高く、地域の持続可能性が高いものと想定されるからである。
 このことから、自治体・地域が持続存続していくか否かは、地域に住み続ける人口がどの程度あるのかが一つの目安になり、特に若年女性が地域に留まることや、移動仮定を経て地域にもどる動機づけとなる「地域に住み続ける価値」の創出が自立持続可能性を高め、自治体消滅の可能性を回避する上で重要であると仮説立てした。
 全体の評価分析結果及び、若年女性が重視する「住みやすさ」と「賑わい」の領域、若年女性の地域評価において自立持続可能性自治体が消滅可能性自治体を大きく上回る15指標、自立持続可能性を特徴づける『子どもの多さ』『生活環境の利便性』『病院・医療の充実』『地域の楽しめる場』『街の美しさ』の5指標から、若年女性が地域に留まる、地域にもどるための動機づけとなるための要件や地域のあり様として10の目標を設定した。


若年女性にとっての「地域に住み続ける価値」を高める10目標


『住みやすさ』の目標 『賑わい』の目標
 ①生活環境で困ることが少ない
 ②病院・医療体制が整っている
 ③街が美しく公共施設や公園が充実している
 ④子育て環境や教育環境が整っている
 ⑤交通利便性が高い
 ⑥子どもや若者の姿が多くみられる
 ⑦引っ越してくる人や移住者が増えている
 ⑧再開発などにより街が変化し魅力的になっている
 ⑨地域に楽しめる場所がある
 ⑩地域の商店街(街)に活気がある


これらをもとに、自治体と地域のステークホルダーが協働して独自の「地域に住み続ける価値」をイノベーション(新しい切り口)によって創造していくことが期待される。



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